「保活」という言葉が定着するほどに、都市部の保育園事情は厳しいものです。
ニュースでは共働き夫婦ばかりがクローズアップされますが、障害者にとっても、子供が保育園に入れるかどうかというのは一大事です。
実は私たちも、病気を理由に、息子を認可保育園に預けていました。
「保育園に預けよう」と思ったのが遅く、当初は認可外(東京都認証)保育所に預けていたのですが、約半年で認可保育園に入ることができました!
このとき、精神障害者保健福祉手帳(以下「障害者手帳」)は役に立ったのでしょうか?
結論からいうと、私たちの場合には「手帳が決め手にはならなかった」のですが、常にそうとは限りません。
障害者手帳のおかげで保育園に入れた!ということも考えられます。
また、一般的な共働きと障害者、どちらがより認可保育園に入りやすいかというのは、自治体によって大きく異なるということも分かっています。
ネット上にもあまり情報のない「障害者の保活」についてご紹介します。
障害者手帳、取得のきっかけは保育園だった
妻が精神科に通い始めた当初、夫は「精神障害者保健福祉手帳」というものの存在を知りませんでした。
妻もおそらく知らなかったと思います。
我が家で「障害者手帳を取得しよう」と考えたきっかけは、保育園への入園でした。
妻の精神的な症状がひどくなったとき、子供は1歳になるかどうかという時期。
妻が自宅で面倒を見るのは不可能な状況でした。
しかしこのご時世、東京近郊には「待機児童」がわんさかいて、病気といえども認可保育園には当分入れそうにありません。
ひとまずキャンセル待ちに加わることにしました。
空きが出るのを待つ間に、「障害者手帳があれば、保育園の選考で有利になる」という未確認情報を、妻がネットで仕入れました。
妻はもともと持病があり、この持病の診断書でも、入園資格としては十分でした。
しかし、身体的な症状よりは精神的な症状のほうが優先される、という未確認情報もあり、藁にもすがる思いで手帳の申請を決めました。
障害者手帳の申請については、以下の記事をお読みください。
大きく出遅れた、我が家の「保活」
さて、私たちが「保活」を始めたのは、息子が1歳になる年の4月でした。
真剣に「保活」に取り組んでいる人からすれば「バカじゃないの」と言われてもおかしくない出遅れですが、これには理由があります。
0歳の間は、親戚の助けを借りるなどして、何とか昼間は夫なしで乗り切っていました。
しかし事情が変わり、息子が1歳を迎える春、私たち3人でどうにか暮らしていかねばならないことになったのです。
布団から起き上がれないほどの鬱状態で、1歳になるかどうかという息子を半日間も世話するというのは、明らかに無理があります。
半月ほど頑張ったものの、保育園探しを始めることになりました。
ひとまず「認可外」確保、次は「認可」にチャレンジ
当然ながら認可保育園はどこも満杯ですが、認可外保育所には幸いまだ空きがあり、5月からの入園が決まりました。
息子が4月以降もギリギリ0歳児だったことが幸いしました。
入園後のゴタゴタも落ち着いた6月ごろ、認可保育園の入園申し込み(キャンセル待ち)を済ませました。
我が家の場合、障害者手帳を申請したのがこの年の9月頃で、入園申し込みの時点で障害者手帳は申請すらしていない状況でした。
次年度の申し込みも始まった
時は巡り、申請中の障害者手帳が届く前に、次年度の入園申込時期(4月一斉入園)が来てしまいました。
そのため、手帳の申請書類の本人控えを提示し、「今、手帳を申請中です」ということで次年度の選考に臨むことになりました。
障害者手帳は万能ではない
当初、障害者手帳なしで認可保育園の入園申し込みを行ったわけですが、手帳はなくとも、病状(窮状)を訴える努力はしました。
また、かりに申し込みの時点で障害者手帳が手元にあったとしても、それだけでは入園できない可能性があることが分かっていました。
入園選考は点数制
すでにご存じかとは思いますが、多くの自治体で、認可保育園の選考(希望者多数の場合の優先順位)は点数制になっています。
点数は家庭の事情で決まり、高得点の人から順に入園が決まります。
早い者勝ちではありません。
キャンセル待ちの場合、たとえば1人分の空きが出たとすると、キャンセル待ちをしている人の中で最高得点の人が「当選」です。
辞退者が出れば、点数2位の人が「繰り上げ当選」となります。
ですから、皆、いかにして自分の「点数」を上げるか、ということに腐心しています。
点数の基本となるのが「両親の就労状況」、つまり「自宅で保育することの困難さ」です。
一般的には、フルタイム勤務もしくはそれに準じる労働時間であれば「満点」となり、激戦区では「両親とも満点」としなければ入園は事実上不可能です。
我が家の場合、夫はともかく、妻は病気のため育児ができない、ということで保育園への入園を希望していました。
つまり妻はフルタイム勤務ではないわけです。
しかし実は、「病気のため保育できない」ということに対しても点数がつき、病状によっては満点がもらえます。
障害者手帳3級では満点がもらえない!
では、障害者手帳を持っていれば、自動的に満点になるのでしょうか?
これは自治体によると思いますが、自分たちの住んでいる自治体では「3級ではNo」でした。
具体的には、精神障害者保健福祉手帳の3級(一番程度の軽いもの)だと点数は「80点」。
満点(フルタイム勤務、重度の障害、精神障害者保健福祉手帳2級以上)は「100点」となっています。
もし手帳があってもそれが3級であれば、他人を差し置いての入園は難しいことになります。
繰り返しになりますが、これは自治体によります。
あなたがお住まいの自治体では同様とは限りません。
病状を訴える、あの手この手
障害者手帳だけで満点を得られないとして、満点を得るにはどうすればいいか?
答えは「診断書」です。
自分たちの住所地だと、「常時病臥」、つまり病気で一日中寝ているしかできないような状態だと認定されれば満点を得られます。
認定してもらうためには「家で起き上がれません」ということが分かる診断書を医者に書いてもらい、必要に応じて病状を自己申告することになります。
私たちの場合、(双極性障害ではなく)SLEのかかりつけの医師に「保育園用の診断書を」とお願いしました。
しかし、保活事情をよく理解していないせいか、文面は実にシンプルで、「自宅保育が困難なので配慮をお願いします」という内容でした。
これでは生活の実態が伝わりません。
そこで、普段の生活がどのようなもので、いかに自宅で保育することが困難か、ということを担当者宛のお手紙ふうにまとめて「直訴」しました。
しかし今にして思えば、多少手間でも、「常時病臥」であることが読み取れるような内容に書き直してもらうのが確実でした。
園長もびっくり! 半年後、認可保育園へ
認可外保育所の高い保育料(自治体からの補助金を受けても月6万超)にあえぎながら、障害者手帳の交付を待っていた10月の半ばのこと。
唐突に市役所から電話がありました。
妻の病状はどのようなものか?との問い合わせでした。
これは…と思っていると、ほどなく、認可保育園に「当選」の一報が入りました!
4月入園をもくろんでいたところ、5ヶ月も前、11月から入園できることになったのです。
希望していた園でたまたま欠員が1人出て、キャンセル待ちの中で我が家が最高得点だったということになります。
プロも意外に知らない?「障害」の優先度
実はこの少し前、通っている認可外保育所の園長から来年度の意向を聞かれていました。
「認可保育園に申し込み中なので、受かったら転園します」と言ったところ「難しいんじゃないですかね」と軽くあしらわれたのでした。
後述しますが、夫には「少なくとも4月には受かる」という勝算があったので、内心「それはどうかな」と思っていたのですが、4月を待たずにこの結果です。
「受かったので転園します」と告げると、案の定、園長は目を丸くして驚いていました。
いってみれば、保育のプロも驚くような結果だったわけです。
認可保育園は障害者に優しいのか?
なぜ、園長が「難しい」と言ったのに、夫は自信を持っていたか?
一般にはあまり知られていませんが、自治体によっては、病気や障害を持つ人に有利な選考基準になっているのです。
ただ、自治体によっては逆に「障害者不利」な場合もあることが分かりました。
私たちの住所地は「障害者有利」
私たちの自治体の場合、点数計算の上では「フルタイム勤務」と「常時病臥」はいずれも満点です。
しかし、入園案内をよくよく読むと、同点の場合には「不存在>災害>疾病・障害>居宅外労働>…」という優先順位で決めていく、と書いてあります。
つまり「病気が理由で保育園を利用したい」という人は、「共働きなので保育園を利用したい」という人より優先的に入園できるわけです(ひとり親世帯には勝てませんが)。
あくまでこれは「同点の場合」であり、基本は点数順なのですが、実際には同点1位が極めて多数いる状況なので、このルールが大きく影響してきます。
これだけ「保活」が盛んですから、多くの申込者は当然のように満点をたたき出してきます。
ですから、いかに「多数の同点者から頭一つ抜け出すか」というところが「保活」のカギになるわけです。
そこで、前述の優先順位が大きな意味を持ってきます。
保育園を利用する人は8割方「共働き」で、病気を理由に保育園を利用する人は多くありません(息子の同級生には一人もいなかったと思います)。
また、「疾病・障害」より上位の「不存在」「災害」もレアケースといえるでしょう。
こうなると、「疾病・障害」に該当する私たちは相当な優位に立てます。
夫が「最低でも来年4月には入れるだろう」と思っていたのはこのためです。
障害者に優しくない自治体もある
「保育園の入園基準は障害者に優しい」という説を補強するために、隣の自治体の基準をあらためて調べてみました。
その結果、意外にも「障害者に優しくない」ことが判明しました。
「フルタイム勤務」と「常時病臥」「障害者手帳2級」が同点、というところまでは私たちの住所地と同じですが、その後が違います。
まず、ひとり親に対して加点がなされます。
これは異論のないところです。
そして、ひとり親世帯以外が「同点決勝」に進むわけですが、ここの基準が障害者にとって優しくないのです。
まず、1年以上の就労実績がある親に1点加算されます。
これは「親ごとに加算」なので、大多数の家庭は2点をゲットするわけですが、病状が重くて就労がままならない場合には、ここで1点取り損ねます。
次に「保護者が障害者等」という項目があり、精神障害者保健福祉手帳を持っていれば2点もらえるので一発逆転かと思いきや、何とこれも「就労している場合」に限られます。
障害者手帳2級でも就労しろと?
結果として、我が家のように「妻が障害者で就労できない」という場合には加点が全くなく、同点決勝は共働き夫婦に敗れる(であろう)ということになります。
いや、冷たいですね。
「障害のため自宅保育できない、当然就労もできない」という人が「普通の共働き」より優先される自治体がどの程度あるのか、気になるところです。
「精神障害はさらに有利」の噂、その真相は?
冒頭に書きましたが、妻はネット上で「保活において、精神障害は身体障害より有利」という未確認情報を仕入れていました。
これは本当なのでしょうか?
私たちの住所地では、明記はされていない
少なくとも私たちの住む自治体では、精神障害を身体より優先するという公式な見解は得られていません。
私たちは障害者手帳なしで、SLEの診断書によって保育園の中途入園を申し込み、見事に「当選」しました。
病状を訴える「お手紙」には精神症状のことも書いたと思いますが、医者が書いた公式な根拠資料はSLE、つまり身体症状の分しかありませんでした(SLEもしばしば精神症状を伴うのですが、保育園の担当者にはそこまで分からないでしょう)。
つまり「精神障害だから」入園できたというわけではありません。
隣の自治体は、もしかして…?
一方、隣の自治体の基準を見てみると、常時病臥は満点の「100点」、そうでなくても精神性疾患であれば「90~100点」になるとのことです。
精神障害者保健福祉手帳を持っているというだけでは点数がつかない一方、「身体障害者手帳」「愛の手帳」ならOKです。
この自治体の場合、「精神性疾患」が別扱いになっていることからして、精神的な症状は身体的な症状より優先される、という噂が裏付けられたようにも思います。
一方で障害者手帳だけでは入園資格を得られないようなので、障害の実態、保育の困難さを診断書なり「お手紙」なりで訴えることが重要です。
また、隣の自治体に限っていえば、そもそも「病気・障害が理由での入園」に冷たいため、精神症状が多少優遇されたところで、共働き夫婦には勝てないように思います。
まずは「いかに点を取るか」を考えよう
ということで、たった2つの自治体を調べただけですが、明確に「精神障害を優先します」というルールはありませんでした。
ただ、かりに精神障害を優先するということであっても、そもそもの点数が十分あった上で、身体障害者と精神障害者が同点決勝になった場合に、「身体障害より精神障害を」といった程度の優先であろうと思います。
私たちがそうであったように、病気や障害が理由で保育園に入りたいのであれば、ボリュームゾーン、つまり大多数の健常者家庭がたたき出してくるであろう「満点」にまず食い込むことが大前提です。
同点で肩を並べたところで、「共働きより病気が優先」というルールにより頭一つ抜け出す、という作戦です(抜け出せない自治体もありますが)。
いくら精神障害があっても、皆が到達する点数に到達していなければ、入園はまず無理です。
点数の低い人が「障害者だから」という理由で先に入園できるのでは、点数制の意味がありません。
ですから、自分の精神症状が満点に値することをあらゆる手段で説明する、というのが最大のミッションといえます。
まとめ:障害者手帳だけに頼らず、材料を揃えよう
以上、我が家の「保活」と障害者手帳の関係をご紹介しました。
結果的に、我が家では障害者手帳なしの状態で認可保育園に入れましたが、あればあったで、より心強かったと思います。
保育園の入園資格のことだけ考えるなら、障害者手帳があれば十分で、診断書などの書類は不要となる自治体が多いでしょう。
しかし、資格があるのと実際に保育園に入れるのは別です。
他人との競争を勝ち抜いて保育園に入るためには、診断書などを用意したほうが、より高い点数を得られる可能性があります。
選考なしに誰でも入れるならともかく、そうでなければ、障害者手帳をもらったことに満足せず、診断書や補足説明のメモなど、病状(窮状)を訴えるための材料をできる限り用意するのが賢いといえます。
結論として、障害者手帳は、あくまで説明資料の一つです。
そのことを念頭に、お住まいの自治体の点数計算をよく研究の上、「保活」に取り組んでいただきたいと思います。
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