鬱なら3級?審査に落ちることも? 障害者手帳取得の基準とポイント

鬱病や双極性障害など、精神症状をお持ちの方は、精神障害者保健福祉手帳(以下「障害者手帳」)をぜひ申請しましょう!という記事を以前に書きました。

精神障害者保健福祉手帳を持つメリットは?デメリットはあるの?
妻が精神科に通い始めた当初、本人も夫も「精神障害者保健福祉手帳」(以下「障害者手帳」)というものの存在を知りませんでした。 「精神障害者に対して何か援助はないのか」と調べていたところ、障害者手帳というものがある、ということを知りました。 ...

しかし、いざ申請して「あなたには手帳を出せません」と言われたらショックですよね。
せっかく手間をかけて申請したのに…

私の症状で障害者手帳をもらえるのか?
もらえるなら何級か?
というところが主な関心事になるかと思います。

 

手帳がもらえるかどうかは、一応の基準はあるものの、個別の判断となります。

そして、ほぼ唯一の判断材料が、主治医の書いた診断書です。

 

ですから、まずは主治医に「障害者手帳を申請しようと思うのですが」と話を切り出し、前向きな反応があるかどうかを確かめましょう
二つ返事で診断書を書いてくれるということならば、見込みはあると考えられます。

 

また、医師は患者の生活実態を100%把握しているわけではありませんよね。

そのため、診断書の内容を意識したアピールも、適切な判定に必要だと思います。

障害者手帳の等級は3種類

障害者手帳には「1級」「2級」「3級」と3段階の等級があります。

1級が最も重度、3級が軽度となります。

1級は特別、2級と3級は差がない?

このうち1級は、最重度ということもあり公的援助の手厚さが違ってきます。

最も経済的効果の大きな税制面では、1級ですと「特別障害者」という扱いになります

通常は27万円の障害者控除(所得税)が40万円になり、さらに同居特別障害者に該当すると75万円もの控除を受けられます。

住民税についても通常26万円の控除が30万円(同居特別障害者は53万円)となります。

所得税10%の方ですと、1級と2級で減税額が年間最大75000円も違ってきます

 

一方、2級と3級については、公的援助という点で実質的な差を感じる場面がほぼありません

私たちは、障害者手帳を交付された当初は3級で、1回目の更新で2級に上がったのですが、2級になったことで追加的なメリットがあったかというとNoです。

私たちは就労支援や訪問介護など込み入った公的援助を受けておらず、ぶっちゃけ、カネに直結する(何らかの割引になる)ことにしか障害者手帳を利用していません。

そういう人にとって、2級と3級で違いがあるという場面は皆無に近いといえます。

明確な「6ヶ月ルール」

では自分が何級に該当するか?と気になるところですね。

が、その前に1つ、確認しておきたいことがあります。

いくら症状がひどくても、精神障害者保健福祉手帳の申請をするためには、初診日から6ヶ月を経過していることが必要です

これは、障害が一過性のものではなく、今後もある程度の期間継続する見込みがある、ということを示すためのルールだと思われます。

 

ちなみに、障害年金の申請では、初診日から1年6ヶ月経過していることが必要です。

これは「症状が固定していること」を示すのに必要な期間とされています。

障害者手帳の等級判断基準は?

ようやく核心に触れていきます。
障害者手帳の等級はどのように判定されているのでしょうか?

 

公的サービスですので、判断基準は明文化され公開されています。

精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000610453.pdf

基本的な考え方

長々と書いてありますが、基本的な考え方は後半の「別添2 障害等級の基本的なとらえ方」というところに書いてあり、基準を抜粋すると以下のとおりです。

  • 1級:精神障害が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの
  • 2級:精神障害の状態が、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
  • 3級:精神障害の状態が、日常生活又は社会生活に制限を受けるか、日常生活又は社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの

要するに1級は「日常生活が(一人では)できない」、2級は「かなり難しい」、3級は「多少難しい」ということですね。

具体的な判断基準

より具体的な判断基準は文書の冒頭に表形式で載っています。

 

私たちの場合、すなわち双極性障害で2級と判定されるための基準は「気分、意欲・行動及び思考の障害の病相期があり、かつ、これらが持続したり、ひんぱんに繰り返したりするもの」となっています。

ちなみに1級、3級もほとんど同じ基準ですが、1級の基準には「高度の」、3級の基準には「その症状は著しくはないが」という一節が加わるので、裏を返せば2級は、症状が「高度」と「著しくはない」の間ということになります。

 

また日常の活動については、身辺の清潔保持、金銭管理、通院・服薬などのうち、いくつかのことが「援助なしにはできない」ことが2級の条件となります。

これが1級では「(援助があっても)できない」、3級では「おおむねできるが、なお援助を要する」となります。

鬱は3級、双極性障害は2級? 等級判断の実際

基準は分かったのですが、実際、鬱病なり双極性障害なりで障害者手帳を申請した場合、何級に該当するのでしょうか?

私たちも同じ疑問に突き当たり、そのときネットで調べたところでは「鬱病なら3級」「双極性障害なら2級」「統合失調症なら1級」といった不確かな情報を得ました。

障害者手帳ではなく障害年金の等級の話だったかもしれませんが、ともかく、そういった大ざっぱな目安があるようでした。

 

その後、私たちは実際に障害者手帳を手にしたのですが、前述の「噂」は私たちの実感と合っています。

妻は当初「鬱病」という診断で、その診断をもとに取得した障害者手帳は3級でした。
その後、診断が「双極性障害」に変わり、2年後の更新時には等級が2級に上がりました。

確かに噂どおりです。

ただ、この2年の間に障害基礎年金(2級)の受給が決定したので、障害者手帳のほうも更新の際に自動的に2級に上がった、というのが正確なところです。

 

言うまでもなく、これは一例でしかありません。

いろいろな方の体験談を見ると、これに当てはまらない例も多々あるようですので、この情報だけを頼りに楽観、悲観するのは考え物です。

診断書が8割

じゃあ結局、私は何級になるの?と思いますよね。

個別の判断なので正解はないのですが、一つ言えることは、医師の書いてくれる診断書の中身が非常に重要だということです。

診断書の中身次第で、±1級のブレは十分あり得ます

診断書には何が書かれるのか?

障害者手帳を申請する際の診断書はフォーマットが決まっています。
東京都の診断書は以下のページで配布されています(他の道府県もだいたい同じようなものだと思われます)。

【医療機関の皆様へ】精神障害者保健福祉手帳の診断書作成
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/chusou/fukushitecho/techo_iryokikan.html

 

これを見ると、普段の生活状況については、8項目について「自発的にできる」「自発的にできるが援助が必要」「援助があればできる」「(援助があっても)できない」という4段階評価になっています。

これ、前述の判断基準そのものですよね!

つまり、主治医が診断書を書く際、いくつかの項目について「援助があればできる」に○をつければ、それでもう2級になるわけです。

 

実際には日常生活だけでなく病状も加味して判断されますし、あまりに不自然な内容であれば「お尋ね」が来ることもあるでしょう。

しかし、専門の医師が客観的、専門的に判断して記載している「はず」の診断書ですから、その内容は基本的に尊重されると考えられます。

主治医の「やる気」次第

まとめると、障害者手帳をもらえるか、等級が何になるかというのは、診断書を書いてくれる主治医の裁量一つ、いってみれば「やる気」次第ということになります。

 

幸いにして、妻の主治医は公的サービスを受けることに非常に協力的です。
障害者手帳にしろ障害年金にしろ、診断書をお願いすると二つ返事で引き受けてくれました。
役所に提出する前に中身を見たところ、記載内容も非常に「協力的」で、これなら落ちることは多分ないよね、といったものでした。

 

ただ、他の人の事例を聞くに、すべての精神科医が協力的というわけではないようです

診断書を書くのが面倒なのか、これまで診てきた経験上「障害者手帳を発行するほどの病状でない」と考えるからか、理由は分かりません。
ともかく、誰でも快く書いてくれる、というわけではないようなのです。

 

不幸にして主治医が障害者手帳の取得に前向きでなかった場合、経済的なことだけ考えれば、思い切って主治医を替えるというのも一つの選択肢だと思います。

ただ、特に精神症状では医師との人間関係が重要です。
いきなり違う先生を受診して、治療をうまく継続できるかは怪しいところです。

また、転院するからには診療情報提供書の一つも書いてもらうことになるでしょうが、「お前が有利な診断書を書かないから転院するんだよ」と言って、気持ちよく送り出してくれる先生もまずいないでしょう。

ということで、現実的にはさすがに難しいかと思います。

生活の実態を伝えることが重要

医師は替えられない、でも精神症状で日々苦しんでいる。

そんな患者さんが、診断書の内容を「改善」するためには、日々の困難な生活実態をしっかり医師に伝えることが重要ではないかと考えます。

 

診断書の作成という仕事は、公的サービスの受給判断の一翼を担っているわけですから、公務員に準じた、客観的で公平公正な判断が求められることは言うまでもありません。

しかし実際問題として、全国にあまたいる精神科医が、同じ患者に対して診断書を作成するとき、その内容にまったくバラツキが出ないとは考えられません。

また、診断書の記載内容のうち生活状況に関しては、医師が日常生活の一挙手一投足を見ているわけではないのですから、多くは患者からの聞き取りに基づき記載することになります

ですから患者としては、診断書にある8つの項目について、「毎日いかに苦労しているか」ということを医師にアピールし、実態に合った診断書を作成してもらうことが肝要だと思うわけです。

 

私たちの場合、たとえば診断書の「適切な食事摂取」という項目についていえば、妻が一人で買い物に行くことは難しく、まして調理はできないため、夫が毎回食事を用意しています(食べること自体はできます)。

こうした生活実態を、診断書の項目を意識した上で主治医に伝えれば、実際の症状より「軽い」診断書は出てこないのではないかと思います。

まとめ:主治医とのコミュニケーションを

以上、障害者手帳を申請して、果たして何級になるのか?という疑問に対して、私たちが知る限りのことをご紹介しました。

 

私たちの場合、繰り返しになりますが主治医に恵まれたといえます。

診断書を意識して生活実態を事細かに伝える、といった努力は特にしなかったのですが、診察の際、折に触れ話してきた「日常の『生きにくさ』」をそのまま診断書に落とし込んでくれました。

それが可能なほど毎回の診察時間が長いということも、当たり前と思っていましたが、比較的恵まれているのでしょう。

多数の外来患者をさばく様を俗に「3分診療」などと言いますが、丁寧なカウンセリングが必要な精神科でも、これに近い診療実態の病院があると聞きます。

 

もし、あなたの主治医が障害者手帳の診断書作成に積極的でない場合、どうしたらよいのかは私たちにもよく分かりません。

が、診断書のためだけでなく、普段から、日々の生活について実態を伝えることが、治療を進めていく上で(そして障害者手帳を取得する上で)重要なことではないかと思います。

特に鬱病など、他人とコミュニケーションがとれないから困ってるんだよ!というところではありますが、せめて主治医の先生とだけは、できる限りコミュニケーションをとりたいところです。

そして主治医が話をろくに聞いてくれないとしたら、それは主治医を替える理由になるのではないかと思います。

コメント

  1. 薗田佳代子 より:

    自分に必要な制度を教えて下さってありがとうございます。

  2. nankeiowner より:

    薗田様
    こちらこそ、コメントいただきありがとうございます。励みになります。
    難病患者の皆さんには、利用できる制度は利用して
    少しでも心穏やかな時間を取り戻していただきたい、
    というのが当サイト運営者の思いです。
    少しでもお役に立てたのであれば嬉しく思います。

  3. 森友愛 より:

    気になる事がぎっしりと書いてあり、とてもありがたく感じました。
    (シングルマザーで生活保護で親子ともに発達障害のADHDなんで、ドクターストップで無職なのです。
    不安障害、適応障害、ptsdを患って25年になります。)金銭管理が苦手で自炊もままならないので、書いてある内容は参考になりました。ありがとうございます

  4. nankeiowner より:

    森様

    コメントありがとうございます。
    状況を伺うに、なかなか厳しい生活とお察しします。
    こういう方にこそ、公的援助が必要だと思うのですが、
    制度自体が知られていない、関係者から教えてもらえないため
    利用できていないということもありますよね。
    微力ですが、そうしたギャップを埋めていければと思って、
    当サイトを運営しております。
    最近、新規の記事を書けていませんが、時々ご覧いただければと
    思います。

  5. 松尾 沙耶 より:

    初めまして。私は今年初めて「自閉症スペクトラム障害」と診断を受けた29歳女性です。私の場合、診断していただけたまではよかったのですが、障害者保険福祉手帳の申請予定日が間近に迫っているのに、担当医師になかなか診断書を書いてもらえず、困っています。私の担当医師の場合、悩みなどをきいてくれるのはありがたいのですが、診断書のことに話が及ぶと、急に渋った反応を見せるのです。いまだ無職なので、早く障害者就労支援を受けたいと思っているのですが、診断書を書いてもらえないため先の見通しが立たず、非常に不安な日々を送っています。

  6. nankeiowner より:

    松尾様
    コメントありがとうございます。心中お察しします。
    正直言いまして、私たちとは(同じ精神症状とはいえ)全く違う病状ですので
    的確なコメントはできないかもしれませんが…

    障害者手帳の新規申請については、毎月審査があり、特に期限というはないと
    思いますので(半年以上通院していることは必要条件となりますが)、
    自分の中での予定より遅れることが嫌というのを除けば、焦らず、もう少し
    大きく構えても大丈夫かと思います。
    (あずかり知らぬ事情がありましたらご容赦ください)
    その上で、主治医が診断書の作成を渋っているようだということですが、
    可能性としては、
     ・症状からして手帳を取得できない可能性があると考えている
     ・取得できるとしても3級の手帳なので意味がないと考えている
     ・単に忙しいので時間を割きたくない
    といったことが考えられます。
    松尾様の場合、就職にあたり手帳が必須と考えられているかと思いますので
    そこは(説明されてはいるのでしょうが)今一度主治医に説明なさっても
    よいかと思います。
    その上で、取得できるかどうかのボーダーラインであるということならば
    「それでもチャレンジはしたい」と強く主張することになるでしょうか。

    ネット上では、こういうとき、主治医を替えては?という意見も目にします。
    このへんは(一般論として)私たち夫婦でも意見が割れるところで、
    夫は「義理もあるし、信頼関係が基本だから、滅多なことでは替えない」
    妻は「医者も完璧ではなく、むしろ誤診やミスも多いので、納得が
    いかなければさっさと別の医者に行ったほうがいい」
    という立場です。
    今回の場合どうすべきか分かりませんが、今一度、松尾様の今後の
    人生設計(手帳取得後のプラン)について主治医に説明なさった上で、
    それでも診断書はちょっと…ということであれば、別の医者に当たって
    みるというのも、選択肢としてはあるのではないかと思います。
    かえって嫌な思いをする可能性もありますが、治療の最終的な目標は
    「必要な援助を受けて、社会で自立していくこと」かと思いますので
    その目標を主治医と共有できることは、必要なのではないかと考えます。

    全くの素人が偉そうに失礼しました。よい方向に進むことをお祈りします。

  7. たける より:

    こんにちは。
    >ダウンロードサービス(東京都保健福祉局・東京都立中部総合精神保健福祉センター)
    のリンク先がエラーになります。

    • nankeiowner より:

      たける様:
      ご指摘ありがとうございました。リンク切れを修正しました。

タイトルとURLをコピーしました